個人事業と法人では税金の種類や税率も変わってくるので、個人事業主のままでいくのか法人成りした方がいいのか様々な見方がありますが、どのタイミングで法人成りするのがいいのでしょうか?この記事では税金の観点から個人事業主から法人成りする分岐点をご紹介します。
1.個人と法人の税金の違いと分岐点
個人事業主と法人ではそもそも納めなければならない税金が違います。
個人事業主が納める主な税金は「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」の4種類ですが、法人は基本的に「法人税」「法人住民税」「法人事業税」「消費税」「固定資産税」「地方法人特別税(令和元年9月30日に廃止されます)」「特別法人事業税(令和元年10月1日より開始されます)」の6種類となっています。この中から法人化に関係する「所得税」と「法人税」に注目しましょう。
個人事業主は1年間の収入から必要経費を差し引いた所得に対して所得税を支払わなければなりませんが、所得税の税率は「累進課税」なので所得金額が多ければ多いほど高くなっていきます。もし所得が4,000万円を超えると税率も45%になり、所得の約半分が所得税として徴収されてしまいます。
法人の場合は1年間の所得に対して法人税を納付しますが、法人税の最大税率は23.9%なので所得税の最大税率45%と比べるとかなり低いことがわかります。さらに、法人税は所得金額が800万円以下の場合税率が15%なのに対し、所得税は23%と割高になっています。
つまり、同じ所得でも個人事業主と法人では納める税金の額が変わってくるのです。もちろんそのほかの要素も考慮する必要はありますが、ある程度所得が増えてきたら法人成りする企業が多いのはこのためです。
所得は売上から必要経費を引いた額なので、会社は基本的に売上を増やすことを目標にしています。そしてある程度所得が増えたら法人成りする方が節税になります。しかし、ただ売上を伸ばせば所得も増えるというわけではありません。
2.粗利と売上について
そもそも、「所得」とは税務上の概念で、会計上では「利益」に当たります。利益は売上から必要経費と税金を差し引いた額です。「利益」と「粗利」という名前を聞いたことがある方も多いと思いますが、個人から法人の分岐点を見極めるにはこの利益と粗利を正しく理解しておかなければいけません。
たとえ売上が多くても税率が高かったり、経費が多くかかればそれだけ利益は少なくなってしまいます。そこで経費を抑えつつ節税していかなければいけないわけですが、そもそも粗利で稼げていなければ意味がありません。
粗利とは売上から原価(仕入れ値)を差し引いた額です。粗利を計算した段階ではまだ必要経費や税金は計算されていませんが、粗利が多くなければ経費を節約したり節税したところで結局は利益を増やすことは困難です。利益と粗利の関係が分かりづらいかもしれませんが、まとめると以下のようになります。
- 粗利 = 売上−原価
- 利益 = 売上−経費−税金
売上から原価を差し引いた額が粗利で、さらに粗利から経費と税金を差し引いた額が利益ということになります。この、売上に対する利益の比率を利益率、売上に対する粗利の比率を粗利率と言いますが、割合で表すことで企業の規模に関わらず純粋にどれほどの利益が出ているかを知ることができます。
つまり、注意しなければいけないのは売上が上がっていても必ずしも利益も上がっているというわけではないので、必ず粗利の率と額を確認しなければいけないということです。
一般的に整骨院やマッサージ店なら粗利率が高くなり、卸業なら平均30%〜50%ぐらいと言われています。粗利率が大きければ大きいほど商品の収益性が高くなるので、従業員1人当たりの粗利率を上げていけば、売上が変わらなくても利益が上がるわけです。税金の点から考えると利益が上がり、ある程度所得が増えてくると個人から法人成りした方が節税になります。
ではどのタイミングで法人化すればいいのでしょうか?
法人化するタイミングと分岐点は税理士や専門家でも意見が分かれるところです。もし所得がそこまで多くないのに法人成りしてしまえば高い法人税を支払うことになってしまいますし、逆に所得が増えてきたのに個人事業のままだと高い所得税を支払い続けることになります。
あくまで参考として、所得が400〜500万円になったタイミングで法人化するという意見があります。これは所得税と法人税を比較し納税額の差を調べると、所得が400〜500万円になったあたりで法人税の納税額の方が少なくなるからです。
しかし、法人化するタイミングは粗利率と利益率、各種税金などの様々な状況を見て各個人事業者がよく分析した上で判断するべきでしょう。
3 .まとめ
個人事業から法人成りするタイミングは明確には決まっていませんが、所得が増えてきた時点で所得税と法人税を比較し節税できる方を検討するもの一つの分岐点です。
タイミングを間違えて法人成りしてしまえば節税どころか逆に多く税金を納めることになりかねませんので、粗利と利益を理解し企業の規模や売上だけではなく純粋にどれほどの利益が出ているかを把握しておくことが重要です。